豪雪のオホーツクより上札。最寄りのJR駅の駐車場も雪に埋もれていると言うことなので、いつもなら車を乗り捨てて行くところを家人に送ってもらった。さすがにゴム長靴ははかなかったが、毎日の通勤着そのままで防寒ジャケット・帽子・手袋姿で札幌に降り立つと、そこは思いの他雪がなく気が抜けたようであった。わが町から向かえば札幌は一応都会的ではあるけれど、でも冷たい都会にはなりきれないものをいつも感じる。
地下鉄でのこと。通勤時で混んでいた。隣の席の婦人が立って行き、代わりに坐ろうとした方が手袋を拾い、「落としましたか?」とわたしに聞く。「いいえ、違います。先ほどの・・」と言いかけながら目であとを追うも、満員の人の中、すでに戸口の方へ行ってしまっている。すると途中にいた若者、わたし達の会話を耳にしたらしく、「手袋落とした人~」と乗降口に向かって声をかけてくれたのである。地下鉄はもう次のホームに滑り込んでいた。わたし達は車輌の中程にいて、手袋を持って行くことさえできない。しかしそのわずかな時間で、その手袋は何人もの人の手を渡り、降りかかった婦人の手許に無事渡った。なんだか心暖まる出来事であった。
さて札幌は先にも書いたように雪が少なく、その分道路はツルツル状態であった。気温が高くて日中には雪が解け、朝夕の低温で凍るのだろう。通行量の多さにも関係するのかもしれない。とにかく道路も歩道もツルツルである。わたしはかつては滑っても決して転ばないのが自慢であったのだが、が、転んだ。危ないなと思いつつ歩いていて、滑って転んだ。その時、近くにいたわっかいお姉ちゃんが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。わたしは慌てて起き上がり大丈夫なところを見せようとしたら、「携帯、落ちましたよ。」とまた声をかけてくれた。有り難かった。特に携帯電話はそのままであったなら、あとからどんなに困ったかと思い、本当にうれしかった。
また別の場面では、今度は横断歩道のど真ん中でお姉ちゃんが転んだ時、通りすがりのサラリーマン風おっちゃんが心配そうにその子が立ち上がるまで見守ってくれていた。何気ない風景ではあるが、なんだかとってもいいなという気持ちにさせられた。
いつもは緑多い札幌が素敵と思うのだが、冬の札幌の町並みもなかなか良かった。朝は朝日が、夕方は夕陽が美しい。大通りでは雪まつりの準備が始まり、あと数日もすると賑やかに開催されるのだろう。今は裸の木の梢の雀だけがものすごい勢いでさえずり続けていた。駅前通りのイルミネーションもきれいで、冬は冬の風情があるものだ。
行きたいところ、食べたいものが色々あったにも関わらず、今回は結局所用の他はどこにも行かずに終わり、最終日に「北の麩庵」でおいしい湯葉などを食べたのが唯一のご馳走。そうして暖かい思い出を胸に、最後はいつものコース、本屋で帰り道に読む本を仕入れ、デパ地下でおいしそうなお弁当を買い込んで車中の人となった。時々訪れる札幌。段々とその良さが濃厚に心に刻まれて、大好きな街となり、次回の訪問も今から楽しみに思える冬の札幌であった。
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